教授 巻 美矢紀
憲法は、小学校から学んできたもので、しかもニュースなどで取り上げられることも多いので、法の中で最もなじみがあるものかと思います。これまで学んできたことは一般市民としての最低限の知識ですが、これからは憲法を専門的に学びます。
憲法も法であり、他の法律科目と同様、解釈を学びます。憲法は法律と比較し、抽象的な文言が多く、その解釈においては、歴史をふまえた比較法的理解が特に必要になります。
最終的な目標は、法の専門家として、憲法に関する具体的な事案を分析し、合憲性を判断しうる能力の涵養ですが、そのためには、分析や判断の道具が必要になります。「憲法基礎」では、その道具となる判例や学説の基本的な理解を学びます。「憲法はセンスだ」といわれることがありますが、他の法律科目と同様、結局は、本人の努力にかかっています。「憲法基礎」では、みなさんの努力が報われるよう、基本的な道具のポイントをきちんとおさえるためのお手伝いをします。
教授 小山 泰史
2022年度からの新カリキュラムでは、未修1年の科目については大きな変更はありません。既修者2年の民法A~Cでは、すでに一定レベル以上の民法の知識があることを前提として、双方向の問答形式(ソクラティック・メソッド)で、簡単な事例問題の検討を通じて知識の確認をしていきます。具体的には、条文の要件と効果、制度趣旨等を、事案への当てはめをしながら、どのように文章に落とし込んでいくかをイメージしつつ質疑応答を展開していく、という具合です。
春学期の民法Aでは、主に民法総則と物権法(関連して一部相続法等も含みます)、民法Bは債権各論を中心に扱います(債務不履行等、契約法に関連づけて一部債権総論部分も扱います)。秋学期の民法Cでは、債権総論と担保物権法の論点を検討します。また、選択科目として民法演習を置き、民法A~Cの振り返りと、これらの科目で十分にカバーできない親族・相続法の論点も取り上げます。
3年次の民事法総合Ⅰ・Ⅱでは、より長文の事案を素材として、生の事実の論点の抽出と適用条文の選択、事実に対する法的評価等、より実践的な検討することになります。
教授 土田 亮
商法基礎では主に会社法を扱います。会社法は商法分野のひとつで、商法は民法の特別法に位置づけられます。多様なステイク・ホルダーの利害を調整するため、会社法典には1000を超える条文があり、学修事項は非常に多くなっています。
民法の特別法という表向きのイメージとは異なり、会社法の主な目的は会社の内部的あるいは対外的な行為の規制であり、規制法という側面があります。また会社法の規定の多くは会社の運営にかかる内部的手続きと紛争解決のための裁判手続きであり、民法はもとより、商法総則・商行為法とも異質なものであるといえます。このため学修に際して戸惑うことも多いかもしれません。会社法はよくわからない、何となく苦手だという声もよく耳にします。
授業では会社法の手続規制としての側面から、会社法がどのような趣旨でどのような手続きを要求しているのかを系統立てて学修し、そのうえで要求された手続きに瑕疵がある場合の扱いを学びます。平板に規定を追うのではなく、規定の重要度に応じて濃淡をつけつつ体系的に学ぶことで、応用的な学修の基礎となる考え方をしっかりと固め、苦手意識を払拭することが目標です。
教授 原 強
民事訴訟法は、民法や商法などの民事実体法が一定の要件のもとに認めている権利の実現にとって不可欠な存在であるといっても過言ではありません。民事実体法が一定の要件のもとに権利を認めていても、義務者が任意履行しない場合に、権利を強制的に実現するための制度がなければ、権利があるといってみたところで画餅に等しいといわざるを得ません。民事手続法である民事保全法、民事執行法とともに民事訴訟法の理解があってこそ、実体法の知識も最大限効用を発揮するものとなります。
民事訴訟法Aの授業では、民事訴訟手続の基本構造、民事訴訟の基本概念を再確認しながら、実際の判例や、さまざまな設例をもとにして、民事訴訟法に関する基本的理解を深めるとともに、事案分析能力、法適用能力、個別具体的な事案に対する問題解決能力を修得できるよう、双方向授業により進めていきたいと考えています。また、民事訴訟法の理解を困難なものにしているものと思われる民事裁判の実際の手続についても、随時紹介しつつ、静的平面的な理解にとどまることなく、動的立体的な理解を得ることができるよう授業を展開していきたいと考えています。
教授 岩崎 政孝
法科大学院は、実務法曹を養成する専門職大学院として、法律実務の基礎科目を学ぶことに大きな意義があります。上智大学の法律実務科目は、経験豊かな実務家教員が中心となり、研究者教員と連携して授業を行います。
模擬裁判は、法科大学院での学修の集大成となる科目です。実際の事件を素材にした興味深い事案につき、教員のアドバイスを受けながら、受講生が手続を進めます。裁判の過程では、 ①多くの社会的事実の中から重要な事実を見つけ出し、事案特有の問題点を克服して的確な法的構成を組み立てる事案分析力や、 ②主張を説得的に展開し、尋問等の証拠調べを経て証拠や経験則による適切な事実認定を導く法的論証力が実際に試されます。法律基本科目の学修の成果を活かして、法曹として不可欠な能力を磨きます。
リーガルクリニックは、第一線で活躍する弁護士講師とともに、実際の法律相談や模擬法律相談を行います。講師のコメントやレポートへの添削は、基本科目の学修の振り返りと実務的スキルの確認の得難い機会になります。
実務科目は、皆さんが法曹として活躍する将来に繋がる主体的な試行錯誤の場です。
教授 岩下 雅充
この2つの授業においては、刑事手続に関する法すなわち刑事手続法の解釈・適用に欠かせない法的な思考力・分析力と論述力を高めるために、すでに得た基本の知識・理解をもとに、架空の事例や判例の事案を用いた検討などによって、解釈・適用のあり方を学びます。
この学びにあたって注意を要するのは、刑事手続の進行を日常的に担うのが法曹三者や警察などのプロフェッショナル(専門的職業人)であって、その実務感覚にそぐわない考えや実践は受容されないという点です。また、捜査手段であれ起訴であれ証拠調べなどであれ、その手続が許されるのか否かはさまざまな価値を適切に勘案して決されなければならないのとともに、許されない手続がなされたのであれば、その後に連鎖して実施される手続をいかにとり扱うのか(たとえば、起訴が不適法と判明したとき、これまでの証拠調べなどの積み重ねを捨ててまでして訴訟手続を打ち切るべきなのか否か)という問題も検討せずにはいられません。ここで必要なのは、憲法や刑事訴訟法などの規定の内容・趣旨を十分にふまえて検討する力と、さまざまな立場や価値に配慮できるバランス感覚でしょう。これらを身につけるための解説や議論の場となるように、2つの授業を用意しています。
准教授 佐藤 結美
この授業は刑法総論・各論の基礎知識を前提として、事例問題を解く練習をしてもらうことを予定しています。司法試験では論文試験はもちろんのこと、短答試験でも具体的な事例を題材とした問題が出題されますが、事例問題を解くためには、身に着けた知識を適切な場面で取り出して、適切な方法で使う必要があります。授業を履修する皆さんには、知識を盤石なものにした上で知識の活用方法の基礎を身につけ、3年生で履修する総合科目につなげていただければと思います。
刑法は学説の対立が激しく、覚えることが多くて大変だと言われることがあります。ですが、わからなくなった時には「この議論は何のためにしているのか」「判例と学説の対立によって結論がどのように変わるのか」ということに着目して考えてみることが必要です。